君がいる場所が幸せの故郷

 

この物語は決してハッピーエンドではない、ように見える。

 

ダイは滅びの剣から逃れることが出来たけれどそれはダイス先生の命と引き換えだったし、そもそもダイが滅びの剣を手にしたのはダナトリアへの復讐と引き換えだった。滅びの剣によって殺された一角狼座の仲間たちは戻ってこないし、ダナトリアに殺された2人の家族も、故郷も二度と蘇ることはない。フローもダイを救う旅の代償として左腕を失った。

 

こうして並べてみると、この物語は実に多くのものが失われる物語で、救いがないように見える。

 

では逆に、救われたものは何だろう?

 

親友のダイを殺すフローの旅はダイス先生の死という形で終わりを迎えた。一見悲劇に見える結末だが、ダイス先生の死は、ダイス先生を永遠の生から救い、フローを友を殺すという約束から救った。

 

では、ダイは?

滅びの剣に呑み込まれながら多くの命を奪ったダイ。その一方で滅びの剣の力でダナトリアに復讐を果たした。

でも、きっとこれはダイが望んでいた復讐ではなかった。ダイは戦士として強くなって、今度こそ里の人々を、大切な"家族"を守ろうとしていた。それこそが彼にとっての復讐だったのだと思う。

しかし残酷にも彼が守りたいと願った人々は、彼の手で殺された。

 

そんなダイの救いは、フローだ。

 

「もしも俺が道を誤ったときは、お前が俺を救ってくれる。そうだろ?」

「うん、約束する。この身を呈してでも」

 

フローはこの約束を果たすためにダイを殺す旅に出た。

ダイを救う唯一の方法と思われたフローの歌。フローは自分の歌を「僕の歌は祈りだ」と言った。僕は殺された人たちのために歌っているんだ、と。

きっとそれが何よりの救いだった。

戦争の声を、血と骨を固めた滅びの剣に、フローの歌は"風の魔法"としてではなく、"祈り"として届いたのかもしれない。

ダイが殺した人々のことを、ダイに代わって想い祈るフローの存在がダイを救った。

 

 

物語の最後、ダイは冒険を続けることを選んだ。

新たな旅に出るダイの手にあるのは、剣ではなくダイス先生の魔法道具。

フローの祈りは、滅びの剣だけではなくダイの心の中にいた黒い獣、復讐心をも風に還したのかもしれない。

 

 

 

そして物語の本当の最後、もう一つ救いがある。

 

ここまで残酷で切ない物語を受け止めてきた私たち観客もまた、救われる。

誰に?

それはもちろん、あの2人に。

物語を終えた私たちの前に現れる2人は紛れもなくアイドルの姿だ。あの瞬間、張り詰めたものが緩んでどうしようもなく安心させられる。ほんの一瞬で私たち観客も、ほかのキャストのみなさんも、みんなを笑顔にできる彼らは、あぁ紛れもなくアイドルなのだと思う。

 

 

この物語は決してハッピーエンドではない、ように見える。

でも物語の本当に最後の最後、舞台の上は確かに幸せで溢れている。

 

だからきっと、この物語はハッピーエンド。